山乃井木工房:岩井雄介のいま何作ってましたっけ

京都丹波(京丹波町)の山村で木工をするあるつくり手の備忘録

夕日の中、山野には藤の実がはじける音が響き渡る

昨日の夕方、日が沈む間際のことです。

パシッ、パシッ。と、指を鳴らすような音が近くから響いてきました。

楡の木に巻き付いた藤から音がするのです。

音がする度に、辺りに莢が舞い落ちます。

ああ、そうかあ。藤はこうやって種子散布をするんですね。

耳を澄ますと、この楡に巻き付いた藤だけではなく、近くの山裾や谷からもピシッ、ピシッ、と聞こえてきます。

まるで藤同士が種を飛ばすのを競うかのようでもあり、落ちる太陽にみんなで賛歌を送るかのようでもあります。

今日、この時という理由を無粋に考えれば、日中は暑かったために湿度は大きく下がっていました。加えて風もでていたので、より遠くに飛ばせる条件が揃っていたのでしょう。

それにしても、このような条件を見逃さない、この植物が具える戦略に目を見張らずにはいられません(注:戦略「strategy」は生態学用語)。

思えば、春を待っていた植物は一斉に活動を始めています。

蕨は岩の隙間からその手を広げ、小楢や椚は新梢から芽を吹き出し、山椒に至っては新緑の先から花芽も覗かせています。

一方で、花の終わった蕗は綿を掲げ、樫は老いた葉を足元に敷き詰めます。

それぞれがそれぞれに世界を持って、自然という豊かな一体を造っています。

(写真はタラの芽)

植物名、特に生きているときはカタカナで書くことが多いのですが、今回は漢字で表記しました。

生物の側面が強い記述ではカタカナ、文化的な側面が強い記述や材料としての存在を指す場合には漢字にしているのです。

ただし、今回はカタカナにしてしまうと、情緒がないと思ったのです。